堀川@大阪です。

 

 昨日香港ドルに対する投機筋関連の内容をアップした翌朝、日経の朝刊

(1997.10.24)で、「香港株安で日米欧急落」の記事を見て驚きました。すでに

香港での戦いは始まっていたんですね。帰宅後、昨日の日経朝刊(1997.10.23)

の3面ですでにその兆候が見られたにもかかわらず、見落としていた不肖さが恥

じられます。昨日関連内容をアップした手前、何も言わない訳にはいかないと思

い、再度アップいたします。

 

 香港ドルが投機の対象にされる恐れは、タイ・バーツ暴落に始まる、いわゆる

アジア通貨危機以降常にありましたが、いよいよそれが現実のものになり、香港

ドルをめぐる投機家対香港・中国当局の攻防戦が開始された訳です。

 

 今日、日経の朝刊と夕刊の関連事項を読んで感じられたことを書きたいと思い

ますが、その前に誤解なきように昨日の内容に補足を加えておきます。

 

 昨日はあまりに簡単に書いたので、中国当局が「アメリカ政府(当局)」と「

アメリカに住む投機家」を区別せず、投機家が動くとただちにアメリカに報復す

るかのような印象を与えたかもしれませんが、両者は基本的に全く別ものであり

、また、中国当局もそこは賢く峻別していると考えます。

 中国当局がアメリカ当局に対して「怒る」のは、投機家が香港ドルを売浴せて

下げようとする動きに対して、アメリカ当局が直接・間接にそれを支援もしくは

黙認していると認識した場合であって、今回の件ではアメリカ当局は香港ドルの

ペッグ制(対ドル固定レート制)維持を支持している(1997.10.24日経朝刊3面

、田村英男氏)ようなので、中国当局がアメリカ制裁のために故意に米国債を叩

くということは考えにくいと思われます。仮に中国がアメリカ政府を脅すとすれ

ば、それはあくまで投機家の動きを牽制させるための抑止目的であり、実際に投

機家が動き始めた以上、たとえ彼等がアメリカ国民であっても、アメリカ当局が

個人として自由に動く彼等を取り締まるとは期待していないでしょう。ただし、

香港ドル防衛のためには大量のドル売り・香港ドル買いが必要なので、結果的に

大量の米国債が売られ、その効果が波及する可能性はあると思います。

 

 今回の香港ドル売り投機の理由は、ごく単純で、いわゆるアジア通貨危機で台

湾を含む周辺諸国の通貨が下落しまくっているのに、香港ドルだけが対ドル固定

相場を維持して、割高になっているように見えるので、下がるべき通貨を叩き売

ることで一儲けしようということです。

 

 ちなみに、なんでそうすると儲かるかを極端な例を用いて言いますと、仮に1

ドル100円が経済の実態(ファンダメンタルズ)からみて適当と思われるのに、

1ドル120円のドル高になっている通貨ドルがあるとします。ここで、いずれ1ド

ル100円になるのが適切と判断する賢い投機家がいて、手元に1万ドルがあると

すると、1ドル110円くらいでドルを叩きうる(大量かつ急速に売る)訳です。(

安いからどんどん売れるでしょう。)すると、水が滝から落ちる如く(勢いと、

かつての潜在的な割高さが顕在化するため、下げがなかなか止まりません。)1

ドル100円にドルが急落する。ここで1万ドルを買い戻せば、10万円の儲けにな

る(手元に1万ドルと10万円が残る)という訳です。実際には、勢いで、一時、

合理的な値段よりもさらに下がるでしょうから、さらに儲かります。

 

 但し、これで儲けるには、条件がありまして、それは、その通貨が経済実態か

ら見た適正額よりも高く評価されていて、そのうち下落すべきであるという確か

な読みです。また、その通貨の管理当局の貨防衛(下落を食い止める)に対する

意思と能力(外貨準備など)も大きな要素になります。

 

 ここで、今回の"Battle of HongKong"(香港金融の戦い)では、これらの点は

どうでしょうか。

 

1. 香港ドルは割高か?

 香港の1996年の貿易収支は178億ドルの赤字です。(SAPIO10/22.1997)それと

、株や不動産がバブル化しているという見方もあるので、香港ドルは割高に見え

るかもしれません。ただし、市場の透明性や安定した金融システム、巨額の外貨

準備といった面で香港はタイとは違うといった見方も多く、IMFは香港当局を支

持すると表明しました。(1997.10.24日経夕刊3面、原田亮介氏)また、まわり

の通貨が下げているなか、ファンダメンタルズ以上に香港ドルが割高に見えると

いう錯覚が起こっている可能性もあります。

 

2. 管理当局の意思と能力

 香港金融管理局(HKMA、中央銀行に相当)が香港ドル防衛に強固な姿勢を見せ

ているほか、董建華・香港行政特別長官も23日、「通貨防衛のためには(株安

という)犠牲を覚悟している*」と表明しました。(1997.10.24日経朝刊9面)

また、中国人民銀行も香港ドル支援を表明しました。(1997.10.24日経夕刊、チ

ャイナ・モーニング・ポスト)以上から、当局の通貨防衛意思は極めて強いと考

えられます。

 また、中国・香港をあわせて2000億ドルに及ぶ外貨準備高があれば、ペッグ制

は維持できるという香港財界の要人の声があります。(1997.10.24日経朝刊3面

、田村英男氏)

 

*通貨防衛のためには、防衛する通貨への魅力を増すため、通常金利を引き上げ

ます。高金利につられて、香港ドルで貯蓄するために香港ドルを購入する量が増

えて、香港ドル高になる(あるいは香港ドル安圧力に対抗する)訳です。通常金

利が増すと、その分、証券市場から資金が貯蓄に回るため、証券市場で株価が下

落します。日米欧株式市場に波及した香港株安はこのように、香港ドル攻防戦の

結果引き起こされたものです。

 

◎今後の展開:

 

 香港経済のファンダメンタルズ、香港・中国当局の意思と能力の高さ(面子と

香港ドル安定による経済的利益、それに破格の外貨準備高、香港金融当局のスキ

ルの高さ等)を考えると、投機家にとって、これは厳しい戦いになることは間違

いないでしょう。タイとは訳が違います。

 

 また、1997.10.24日経朝刊3面、田村英男氏の記事によれば、どうも今回はタ

イとは違って、ジョージ・ソロス氏が投機に参加していない可能性が高いとも考

えられます。彼が参加しないような戦い(彼は勝てる戦いしかしません。)で、

他の投機家は勝利できるのでしょうか?

 

 結果はもうじき出るでしょう。

 

 ではまた、お元気で。

 

      1997.10.25  大阪  堀川 哲朗